奇跡のリンゴ
2009 年 03 月 31 日
いくら体によいからといって、りんごは皮をむかずにまるかじりなどしてはならない。 収穫までに10回以上農薬を散布しているからだ。
農薬なしでは、リンゴを実らせることは不可能と言われている。 害虫や細菌にやられやすいのだ。 それを発想の転換で、無農薬りんごを可能にしたのが木村秋則さんだった。 その物語を読んで(『奇跡のリンゴ』 幻冬舎 石川拓治著)、とても感動した。
しかし、木村さんの無農薬の試みは失敗の連続だった。 何年も実がならないどころか、りんごの木は瀕死の重症になっていった。 当然経済的にも困窮していく。
諦めかかった最後の最後によみがえらせたのは発想の転換だった。 自然の木は農薬を与えなくても育っていく・・・。 通常僕らが食べているりんごは、農薬をまかないと育つことができないほどにひ弱な木になった実なのだ。 それは、「大きくおいしいリンゴをたくさん生産する」ための代償でもあった。 そのひ弱な木を無農薬にすると虫や細菌にやられて枯れてしまう。 悲惨なくらいたくさんの虫が集まり、壊滅的になってしまう。 ところが、土地に力を与え、自然界のバランスが復活すれば、リンゴも実をつけるはず・・・・・。
木村さんは、農薬をまかずに土中細菌を豊かにし、木の周囲の草を刈らないことで土地の力を回復させた。 しかし、自然はそんなには甘くない。 それですぐには無農薬リンゴは成功しなかった。 最初のうちは、どこから湧いてきたのかというくらいにたくさんの虫がついたために、実がなるどころではなかったらしい。 ところが土地に力がつき、根が育ってくるに従い、木も強くなっていった。 やがてよってきた虫を食べるために多様な生き物たちが集まり、数年かかって生命のバランスがとれてきた。 自然界の絶妙なバランスが蘇ってきたのだ。 そして、とてもおいしい実をつくるまでに復活していったりんごの木。 この木々は根が立派に育っているので台風で他の畑の木が倒れた時でもびくともしなかったらしい。
この自然界の絶妙なバランスは、あまりにも複雑で、現代科学をもってしても理解不可能である。 それを知るのは、自然をじっと観察し、五感で感じ取るしかない。 それを木村さんはおこなったのだ。 その忍耐力・執念に脱帽した。 書評で、脳科学者の茂木健一郎氏は「木村秋則さんのリンゴは来るべき未来への叡智を与えてくれる知恵の果実だ」と述べている。
都市にすむようになった人間には、この自然界のバランスを感じる能力がどんどん低下している。 だから平気で自然を破壊しつくせるのだ。 人間も自然の一部なのに・・・・。
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