深田雅之講演会 「腸内細菌と粘膜免疫―自然免疫による共存のメカニズムと疾患との関係―」
2009 年 05 月 12 日
昨日、大学時代に一緒に炎症性腸疾患を勉強していた深田雅之先生が講演するというので川越まで行ってきた(川越は遠かった!)。 彼は自分の力でアメリカに留学し、ポストを獲得するととともに、30代でマイアミ大学・消化器部門の准教授になっている。 まだ若干40歳。 数年後には日本の教授としてどこかの大学に向かい入れられるだろう逸材である。
昔から彼は人一倍熱心で、努力と根性はピカイチだった。 僕の外来や内視鏡検査を見学するために朝6時に病院に来て、患者さんの診察を終えてから見学に来ていた。 病棟診療や画像診断の勉強も熱心だった。 彼は臨床の態度が素晴らしいだけではなく、研究に対しても熱心だった。 彼は自分で師をみつけ、研究を発展させていき、今のポストまで上り詰めていったのである。
彼の講演を聴いて、研究内容の素晴らしさに感動した人が多かったと思う。 僕も、よくここまで分子生物学的な研究手法を身につけたのかと感動したが、同時に科学の限界も感じた。
彼や僕が専門にしているのは炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)で、その原因はいまだ不明である。 多くの研究がなされているが原因は明確になっていない。 おそらく粘膜バリアーの破たん、細菌の関与、遺伝的背景、免疫応答の異常など多因子が絡み合っているだろう。 一つ二つの手科学的手法からでは全貌は現れてこないような気がしている。 しかし、研究者たちはさまざまな手法でより深く深く、またより末梢的な方向に研究をすすめている(科学の手法は通常はこうなのだ)。 だが、彼はそれらの人たちと決定的に違うように思った。 なぜかというと彼が最初に出したスライド、そして講演中に何度か出てきた調和という言葉が物語っていた。 最初のスライドはマイアミの大湿地帯を写したものだった。 その大湿地帯がなければ地球のエコシステムが崩れるという話、これは人でも当てはまるということを言いたかったのだろう。 彼は、かなり専門的な研究を進めても根底にバランス・調和という思想がなければ本質から外れるということに気づいているはずだ。 この発想があれば、いつか重大な発見をしてくれるかもしれない。 僕には、彼がマイアミ大学の准教授になったことも嬉しかったが、よりいっそう嬉しかったのは彼がいきいきとしていること、さらには非常に専門的(=末梢的ともいえる)な研究をしながらも本質に近づいていることだった。 研究を通して、彼は「道」を極めつつあることにとても感動したのだった。
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